もうすぐ成人。先のこと考えていないわけじゃない。
私だっていずれは結婚する。結婚したい。
ううん、いずれじゃなくてすぐが良いかもしれない。なぜなら…
「リアベルちゃん」
「んっ…」
「…おはよう」
「おはよう、ガルデルさん」
いい歳して私の生まれる前から恒例だった(らしい)おはようのキス。
とにかく子供の目なんて気にせずに、
イチャイチャするこの両親の元からはやく出て行きたかった。
いや、両親のことは大好きだけどね。
ベルデ兄さんとアデル兄さんがさっさと結婚したのも納得がいく。
今私が両親と一緒に暮らしているのは古城。
このまま成人してロークとシーラどちらかのエルグに配属されたとして、
仕事場が微妙に遠い。船を乗り継ぐのもなかなか面倒だし。
だから、さっさと結婚して引っ越したい。
けれどそれには問題が一つ…ううん。いくつかある。
ひとつ。この国には私好みの男性が居ない。だから思い切って移住…を考えている。
ふたつ。移住するのを阻もうとする男が一人…いや二人?
「移住、しようかな」
「…は?」
「えぇ〜ガリアちゃんいなくなっちゃうの〜?お兄ちゃん寂しいよ!」
「兄さん、邪魔」
ベルデ兄さんが横から飛びついてくる。
自分はさっさと結婚したくせによく言うわ。
アデル兄さんは眉をしかめただけでそれ以上は何も言わなかった。
ママはびっくりした様子だったけど何も言わなかった。
パパは…ちょっと黒いオーラを発しながら微笑んでいる。
同級生と二人で遊びに行ったときもこんな感じだったな。
「ガリアちゃんを見知らぬ国にやるなんて、僕は心配だなぁ」
まるで、嫁には行かせん!
とでも言い出しかねない雰囲気のパパなんて無視してママが口を開いた。
「どうして、移住したいの?」
「好みの男性がいないからよ」
「だと思った」
静観していたアデル兄さんは、予想はついていたと言う様につぶやいた。
まぁ、アデル兄さんには時々ぼやいたりしていたからわかって当然よね。
「ガリアちゃん、僕は反対だよ。好みの男性が居ないなら結婚しなければいい」
「そうだよね〜ガリアちゃんお嫁に行かないでここでお姫様になればいいよ」
「(そういうわけにもいかないだろ)」
「まぁまぁ。まだガリアちゃんが成人するまで日があるし、
今すぐ決断しなくていいでしょ。
ほら、ベルデもアデルもそろそろ帰りなさい」
ママに背を押され、既婚者二人は家路についた。
パパは、その後は何も言わなかった。
その夜、パパとママが話しているのを聞いてしまった。
「ねぇ、ガルデルさん。私はね、ガリアちゃんの移住には賛成よ」
「リアベルちゃん…」
ママはパパの肩にそっと触れた。
「ガルデルさんがね、ガリアのこと本当に愛してるのはわかってる。
幸せを願ってることもね」
「だったら…」
「でも忘れないで。私たちも移住したから出会えたって事」
「……」
「家族に反対されたまま移住してしまったら私みたいに泣いちゃうかもしれない」
「ごめん、ごめんね、リアベルちゃん」
パパがママを優しく抱きしめたのを見て、私はそっと家を出た。
家の前で月でも眺めようと思ったら予想外の人と出くわした。
「出てくると思った」
「アデル兄さん…」
「父さんは、ああ言ってたけど、ガリアが本気で行きたいなら反対しないよ」
「うん…ていうかわざわざそれだけの為に来たの?」
それとも、ママに追い出されてから私が出てくるまで、
この寒空の下待っていたのだろうか?なんてまじめな兄なんだろう。
でも、嫌いじゃない。
「妹の為だし。いいだろ、たまには」
「うん」
「ベルデ兄さんもちゃんとわかってる」
「うんっ…」
「みんな、お前の幸せを願ってる」
「…ぅんっ」
我慢していたのに視界がゆがんで、涙がこぼれた。
そんな私をアデル兄さんはそっと抱きしめてくれる。
…ありがとう。
*
「いい船出日和ね、ガリアちゃん」
「うん」
成人の儀には出なかった。
ナルル王国を出て行く私は儀に出る資格はないと思ったから。
もちろんパパたちは気にしなくていいって言ってくれた。
でもこれは私のけじめだ。
「ガリアちゃん〜元気でね!手紙書いてね!寂しいよ〜」
「ベルデ兄さん。うん、手紙書く。ありがとう」
相変わらずベルデ兄さんは私に抱きついてくる。
小さい頃から変わらない。優しい兄。
「ガリアちゃん。辛くなったらいつでも帰ってきていいからね。
キミの家はいつだってここにある。
父さんたちはいつでもキミの心の中に居る。寂しく思うことはないよ」
「パパ。ありがとう。大好き」
パパの優しくて大きな手が私の頭を撫でた。温かい手。
「ガリアちゃん。新しい土地での生活は大変だろうけど頑張ってね。
ご飯ちゃんと食べるのよ?」
「うん、わかってるよママ」
ママが抱きしめてくれるとやっぱりホッとする。頑張ろうって思う。
「ガリア。いい男捕まえろよ?」
「当たり前よ。そのために行くんだもの」
「…幸せになれよ、絶対。じゃなきゃ俺がそっち行くからな」
「ふふっ。ありがとう」
まじめで、我が家で一番気遣いさんのアデル兄さん。不器用な兄さん。
「いってきます!」私は笑って、移住船へと乗り込んだ。
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